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釧路地方裁判所帯広支部 昭和50年(ワ)129号 判決

原告

馬渕忠男

被告

大谷亨一

ほか一名

主文

一  被告大谷亨一は原告に対し金一三〇万六五二七円及び内金一二〇万六五二七円に対する昭和五一年七月六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告株式会社吉田組に対する請求及び被告大谷亨一に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告株式会社吉田組との間に生じたものは全部原告の負担とし、原告と被告大谷亨一との間に生じたものはこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して金四九一万八八〇〇円及び内金四四七万一六三七円に対する昭和五一年七月六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告大谷亨一)

原告の請求を棄却する。

(被告株式会社吉田組)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告は、次の交通事故(以下「本件交通事故」という。)によつて、身体的傷害及び物質的損害を蒙つた。

(1) 発生日時 昭和四七年九月二六日午後一〇時三二分頃

(2) 発生場所 北海道根室市西浜町二の五三番地先国道四四号線路上(以下「本件道路上」という)。

(3) 加害車両及び運転者 被告大谷亨一運転の普通乗用自動車(登録番号函五五さ一九六七号)。

(4) 事故の態様 原告がその所有する普通乗用自動車(登録番号帯五は一六二〇号)を運転して、国道四四号線を西進中、本件道路上を左折しようとしたところ、被告大谷亨一運転の加害車両が、原告運転の被害車両後部に追突してきた。

2  責任原因

(一) 被告大谷亨一について

被告大谷亨一は、加害車両の所有者として自己のためにこれを運行の用に供していたものであつて、また、本件交通事故は、同被告が本件道路上を走行中、前方注視を怠つた過失により惹起されたものであるから、次項の身体的損害及びこれに関する弁護士費用については自動車損害賠償保償法三条により、また物質的損害及びこれに関する弁護士費用については民法七〇九条により、いずれも賠償する責任がある。

(二) 被告株式会社吉田組について

被告株式会社吉田組(以下「被告会社」という。)は被告大谷亨一を従業員として使用していたもので、本件交通事故は、被告大谷亨一が被告会社の従業員である訴外櫛引義信の給料の運搬に関する業務を遂行中、前方不注視の過失により発生させたものであるから、被告会社は原告の蒙つた次項の身体的損害及びこれに関する弁護士費用については運行供用者として自動車損害賠償保障法三条又は使用者として民法七一五条により、また、物質的損害及びこれに関する弁護士費用については使用者として民法七一五条によりいずれも賠償する責任がある。

3  損害

(一) 身体的損害

原告は、本件交通事故により頸椎捻挫、頭部挫傷、胸部及び背腰部挫傷の傷害を受け、次のとおりの損害を受けた。

(1) 治療費 合計金七五万五七〇七円

(イ) 根室市立病院(昭和四七年九月二六日から同年一〇月九日まで入院治療) 金七万八〇六八円

(ロ) 帯広協会病院(昭和四七年一〇月一三日から同四九年八月二六日まで通院治療) 金一六万九五三九円

(ハ) 大須賀、島部、内山各治療院及び岩田マツサージに各通院(指圧料) 金五〇万八一〇〇円

(2) 通院費 金四万〇七六〇円

(3) 慰藉料 金二〇〇万円

原告は、本件交通事故により一四日間の入院及び二年間余りの通院を余儀なくされ、その間多大な精神的苦痛を受けたので、これを慰藉するのに入院期間中によるものとして金八万円、通院期間中によるものとして金一九二万円が相当である。

(二) 物質的損害 合計金一六七万五一七〇円

(1) 本件交通事故により、原告所有の被害車両は破損し、金六七万五一七〇円の損害を受けた。

(2) 原告は本件交通事故当時、被害車両に美術刀剣二振(村正作短刀一振及び横山源之進祐定作太刀一振)を有していたところ、本件交通事故により右二振の刀剣にいずれも刃こぼれが生じ、精神的打撃を受けたので、これを慰藉するのに金一〇〇万円が相当である。

(三) 原告は、本件訴訟手続の遂行を原告訴訟代理人に委任し、その手数料として請求額の一割に相当する金四四万七一六三円を支払う旨を約している。

4  よつて、原告は被告らに対し金四九一万八八〇〇円及び内金四四七万一六三七円に対する本訴状が被告大谷亨一に送達された日の翌日である昭和五一年七月六日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告大谷亨一)

1 請求原因1記載の事実は認める。

2 請求原因2(一)記載の事実のうち、被告大谷が加害車両を所有していたこと、本件交通事故は原告主張のように、被告大谷の前方不注視の過失により生じたことは認める。

3 請求原因3(一)記載の事実のうち、原告が本件交通事故により頸椎捻挫、頭部挫傷、胸部及び背腰部挫傷などの傷害を受けたことは認めるが、その余は不知、同3(二)(1)記載の事実のうち、原告所有の被害車両が本件交通事故で破損したことは認め、また、同(2)記載の事実のうち、原告所有の美術刀剣二振が損傷したことは認めるが、その余はすべて不知。

(被告会社)

1 請求原因1記載の事実は不知。

2 請求原因2(二)記載の事実のうち、本件交通事故当時、被告株式会社が被告大谷亨一を労務者として雇傭していたことは認めるが、同被告が被告株式会社の業務執行中であつたとの部分は否認し、本件交通事故の原因が被告大谷亨一の前方不注視の過失によるものであるとの部分は不知、その余は争う。因みに、本件交通事故は、被告大谷亨一が女友達に会いに行つた際に起こしたもので、被告株式会社の業務遂行中の交通事故ではなく、また、被告大谷亨一所有の加害車両については、被告株式会社は何ら運行支配・運行利益を有していないものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件交通事故の発生について

原告と被告大谷との間では、請求原因1記載のとおりの本件交通事故が発生したことは争いがなく、また、原告と被告会社との間では、当事者間において成立に争いのない乙第五号証ないし七号証によると、請求原因1記載のとおりの本件交通事故が発生したことが認められる。

二  責任原因について

1  被告大谷に関して

原告と被告大谷との間では、本件交通事故が被告大谷の前方不注視の過失により生じたものであること及び同被告が加害車両を所有して運行の用に供していたことについては争いがなく、したがつて、被告大谷は本件交通事故により原告が蒙つた損害について賠償する義務がある。

2  被告会社に関して

原告は、本件交通事故は被告大谷が被告会社の従業員として他の従業員の給与の運搬業務に従事していた際に惹起させたものであるから、被告会社は自動車損害賠償保障法三条及び民法七一五条による賠償義務がある旨主張し、右主張に添う証拠として、被告大谷は本人尋問において、「被告会社の釧路出張所長であり、現場主任でもある倉内芳勝さんから午後六時ころ、事務所で櫛引義信に給料を持つて行つてくれと頼まれたので、花咲まで給料を運んで行つた。…給料は櫛引が出掛けていて会えなかつたので、事務所の人に渡して、途中女友達と会つて、別れてからの帰途本件交通事故を起こしてしまつた。」旨述べ、また、原告本人及び証人松本松雄(第一回)らも、「被告大谷が、本件交通事故の翌日原告を病院まで見舞いに来た際、本件交通事故は被告会社の釧路出張所長の命令で、花咲港に来ている被告会社の従業員の給料を送り届けた帰りに起こしたものであると述べていた。」旨供述するところである。

しかしながら、原告と被告会社との間において成立に争いのない乙第一号証、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、一一号証及び証人倉内芳勝の証言などによると、被告会社では給与は毎月二五日締めの翌月一〇日払いとなつており、訴外櫛引義信に対する給与の支払いが特に遅配していたとする事情にはないこと、また、右訴外櫛引義信は、昭和四七年八月分の給与については昭和四七年九月一一日に受領しているとして、本件交通事故の発生日に被告から給与の運搬を受けたことを否定していること、さらに、被告大谷は、本件交通事故の翌日である昭和四七年九月二七日に警察官から本件交通事故について取調べを受けた際に、加害車両を個人的用事で運転していた旨供述していたこと、以上の事実が認められ、これらの事実に対比すると、原告主張に添う前掲原告、被告大谷各本人尋問における供述及び証人松本松雄(第一回)の証言部分はいずれもたやすく措信しがたく、他に前記主張を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告の被告会社に対する請求は、その余の判断をするまでもなく失当である。

三  損害について

1  身体的損害

原告と被告大谷との間では、原告が本件交通事故により頸椎捻挫、頭部挫傷、胸部及び背腰部損傷を受けたことは当事者間に争いがなく、そこで、治療費等の損害額について検討する。

(一)  治療費 金三三万四四〇七円

原告と被告大谷との間において原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証ないし九号証、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲第三八号証、第三九号証及び弁論の全趣旨を総合すると、本件交通事故と相当因果関係にある治療費としては、根室市立病院における入院分金七万八〇六八円、帯広協会病院に対する昭和四七年一〇月一三日から昭和四九年八月二六日までの間の通院分金一六万九五三九円、内山指圧治療院に対する昭和四七年一〇月一八日から昭和四八年三月二三日までの間の指圧料金八万六八〇〇円の合計金三三万四四〇七円と認める(なお、原告と被告大谷との間において原本の存在及びその成立に争いのない甲第一〇号証ないし一四号証、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲第一六号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一九号ないし二五号証などによると、原告が昭和四八年七月三一日以後も岩田マツサージ、大須賀治療院、島部治療院などに通院し、指圧を受けていたことが認められるが、前記内山指圧治療院における治療終了から四カ月余り経過後の通院であり、しかもその後の指圧治療は数ケ月間の間隔を置いての断続的な通院状況にあることからすると、右各通院は本件交通事故と相当因果関係にある治療とは認めがたい)。

(二)  通院費 金二万二一二〇円

原告本人尋問の結果、同結果により真正に成立したものと認められる甲第一八号証の一、二及び弁論の全趣旨によると、本件交通事故と相当因果関係の範囲内にある通院費としては、前記(一)において認定した病院及び指圧治療院に対する分として合計金二万二一二〇円と認める。

(三)  慰藉料 金四〇万円

原告と被告大谷との間で争いがない前記1冒頭の傷害の内容及び弁論の全趣旨から認められる入院、通院などの状況、その他諸般の事情を考慮して、慰藉料は金四〇万円が相当であると認める。

2  物質的損害

原告と被告大谷との間では、本件交通事故により、原告所有の被害車両が破損したこと及び原告主張の美術刀剣二振が損傷したことは争いがなく、そこで、物質的損害額について検討する。

(一)  車両損害 金二五万円

弁論の全趣旨から、本件交通事故による車両損害としては金二五万円を相当と認める(なお、証人松本松雄(第二回)の証言、同証言により真正に成立したものと認められる甲第三七号証の一ないし一八、原告本人尋問の結果及び同結果により真正に成立したものと認められる甲第二六号証などによると、原告所有の被害車両は後部トランクを中心として破損の状態が著しいものと看取でき、その修理のため金六七万五一七〇円を要するものと認められるが、右証人松本松雄の証言及び弁論の全趣旨からすると、被害車両は本件交通事故後数カ月間野ざらしのまま放置され、右甲第三七号証の一ないし一八(いずれも被害車両を撮影した写真)は廃車直前の被害車両の状況を撮影したものであつて、また、右甲第二六号証(見積書)もその作成日付からすると、同じころに見積して被害車両の修理費を算出した形跡が窺われるうえ、原告と被告大谷との間で成立に争いのない乙第五号証(実況見分調書)によると、原告所有の被害車両は、本件交通事故によつて後部バンバーに凹型の損傷を受けたにすぎないものと認められることなどからすると、前掲各証拠は、いずれも本件交通事故当時の被害車両の損害額認定について、たやすく採用しがたい)。

(二)  美術刀剣の一部損傷に対する慰藉料 金二〇万円

原告本人尋問の結果、同結果により真正に成立したものと認められる甲第三四、三五号証の各一、二及び松本松雄(第二回)の証言によると、本件交通事故により、原告所有の美術刀剣二振(村正作短刀一振及び横山源之進祐定作太刀一振)について、若干の刃こぼれが生じていたことが認められるが、右原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、右刃こぼれはいずれも研ぎ物によつて容易に解消していたこと、また、右刀剣二振のうち一振がその後購入価格を下まわることなく転売されている事情にあることが認められ、その他諸般の事情を考え併せ、慰藉料は金二〇万円をもつて相当であると認める。

3  弁護士費用 金一〇万円

弁論の全趣旨によると、被告らが本件交通事故による賠償義務に応じないので、原告が本訴の追行を弁護士である本件原告訴訟代理人に委任し、その報酬として原告主張の金員の支払を約していることが認められ、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らし、被告大谷が原告に支払うべき弁護士費用は金一〇万円が相当であると認める。

四  結論

以上のとおりであつて、原告の被告大谷に対する請求のうち金一三〇万六五二七円及び内金一二〇万六五二七円に対する同被告に本訴状が送達された日の翌日である昭和五一年七月六日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余の請求及び被告会社に対する請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井上稔)

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